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執筆者の写真弁護士 小堀 信賢

社長1人法務期を乗り切る10の手引き その8:知的財産の取扱い

更新日:2022年10月9日








0.はじめに

インターネットが広く普及した現在では、どんなに独創的なビジネスアイデアでも利益に繋がるものはすぐに模倣され、コピー商品や酷似したサービスが市場に出回ることになります。

このような時代において、先行者利益を確保しつつビジネスを円滑に進める上で、知的財産(権)を守る必要性はますます高まっています。また、コンプライアンスが強く求められる現代においては、他社の知的財産(権)を侵害した場合のペナルティも大きなものとなりがちです。


もちろん、知的財産を巡る契約を締結したり、自社の知的財産権が侵害されている疑いが生じた場合など、知的財産の問題が具体化した場面においては、知的財産に知見を有する弁護士や、知的財産の専門家である弁理士に相談すべきこととなります。


しかし、経営者自身が最低限の知的財産に関する知識も有しないとなると、ビジネスの内容や進め方の大枠を決めるに当たり支障が生じたり、そもそも専門家に相談すべきなのかの判断が付かなかったりするおそれもあります。


そこで本日は、知的財産の基礎について解説したいと思います。


なお、人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物などのうち財産的な価値を持つものを総称して「知的財産」と呼びます。

また、知的財産の中には、著作権や特許権など、権利として法的に保護されるものがあります。それらの権利は「知的財産権」と呼ばれます。



1.著作権について


(1)著作権とは


漫画や映画などの著作物を保護するための権利のことを「著作権」と呼びます。

そして「著作物」とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいいます。


著作権で保護される著作物は、小説、音楽、絵画、地図、アニメ、漫画、映画、写真、さらにはコンピュータープログラム等、多岐にわたります。


ただし、形式的にこれらに該当すれば直ちに著作権が認められるわけではありません。「①思想又は感情を②創作的に③表現したものであって、④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」といえる必要があります。


すなわち、以下のようなものは、著作物に該当しないとされています。

① ある実験の結果そのもののような「単なるデータ」は、思想又は感情を表現したものでないから、そのデータの取得にどれほど費用をかけたとしても、著作物に該当しません。

② 著作物は思想又は感情を「創作的」に表現したものであることが必要なので、他人が創作したものを模倣したもの(デッドコピー)や、ありふれたもの(例:「平素より格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。」といったビジネス上の挨拶)は著作物に該当しません。

③ 推理小説のトリックのような「アイデア」自体は、表現以前の思想又は感情そのものなので著作物に該当しません。

④ 車のデザインなど工業製品に係るものは、文芸・学術・美術又は音楽の範囲に属しないので、著作物に該当しません(著作権法以外の知的財産法で保護されます。)。

なお、誤解を恐れずにいうと、上記は感覚的に著作物に該当しないと判断されるものについて、その理由を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」という定義を用いて説明したといったものに過ぎません。


すなわち、著作物性が問題となるものについて、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」という定義に当たるか当たらないかという形式的な観点からスッパリと結論が出せるというものではなく、実際には様々な要素を踏まえた価値判断が行われることになります。


「株式会社Amanoの会社ロゴ」については、そのロゴのデザインいかんでは著作物性が認められることになります。例えば、文字列だけのロゴであれば著作物性は認められにくく、一方、文字列と絵柄を組み合わせたものであれば、著作物性は認められやすくなります。ただ、いずれにせよ、会社ロゴについては、商標権による保護を中心に検討すべきでしょう。


(2)著作権の権利内容


著作権は多数の権利の束のようなものです。すなわち、複製権、公衆送信権、譲渡権など多数の権利(支分権)によって構成されています。


また、著作権などの知的財産権は、積極的に何かを行う権利というよりも、無断で何かをされないことを内容とする権利です。

例えば複製権は、「コピーできる権利」というよりも(他人の権利を侵害しなければコピーを取ることは著作権者でなくても自由です)、「コピーされない権利」といえます。

よって、例えば、他者が著作権を有する絵をコピーしようとする場合、無断でコピーすれば著作権(複製権)侵害となるので、原則として著作権者の許諾(ライセンス契約)が必要となります。


(3)著作権が保護されるための要件


著作権は創作と同時に発生します。権利の発生のために特許庁や文化庁等の登録を受ける必要はありません。特何もしなくても保護されるということです。


なお、著作権にも登録制度は存在しますが、これは、ある著作物の著作権者が誰であるかを明らかにすることなどを通じて著作権関係の法律事実を公示するとか、著作権が移転した場合の取引の安全を確保するためのものに過ぎません。


また、Ⓒマーク(コピーライトマーク)というものをしばしば目にしますが、日本国内(日本の著作権法)においては、Ⓒマークを付さないと著作物として保護されないということはありません。すなわち、日本においてはⒸマークには法的な意味はほとんどないのです。

ただ、ある著作物を利用したいと考えた人が、その許諾を求める先を示すといった事実上の有用性は認められるでしょう。また、「Ⓒマークがなければ自由に引用可能」といった誤解をしている人もいると思われるので、トラブル防止の観点からⒸマークを付すことも考えられます。



2.特許権について


(1)特許権とは


発明を保護するための権利を、「特許権」といいます。

「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度なものをいいます。


…といわれてもいまいちピンとこないかと思われますので、ここで典型的な特許事案を見てみましょう。


以下の発明(筆記具)について、特許が取得されています。

​​【フリクションボール】


フリクションボールとは、通常のボールペンのように書くことはもちろん、付属のラバーでこすることにより、書いた文字を消すこともできるボールペンです(しかも、消しカスは出ません。)。

なぜそのようなことが可能なのかというと、用いられているインキ(フリクションインキ)が一般的なものとは異なっているためです。具体的には、発色剤と顕色剤、変色温度調整剤が封じ込められたマイクロカプセルが使われています。

そして、付属のラバーでこすることで、摩擦によって発色剤と顕色剤が分離し、無色透明となるという仕組みです。

著作物が人の思想又は感情を表現したものであるのに対し、特許権は自然法則を利用したものである点が大きく異なります。


なお、新しいビジネスモデルを考え付いたとしても、ビジネスモデルそのものについて特許を取得することはできません。

特許法では、発明を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」と定義しているところ、ビジネスモデルそのものは人為的な取り決めであり、自然法則を利用したものではなく、特許法上の発明とは認められないのです。


ただし、ビジネスモデルを実施する際の技術的な工夫であれば、特許を取得する余地があります。


すなわち、お小遣いアプリを通じて学習塾やおもちゃ屋と連携するという株式会社Amanoのビジネスモデルについては特許を取得することはできませんが、株式会社Amanoのアプリ(内のシステム)が「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」といえるのであれば、発明に該当し、特許を取得することが可能です。


(2)特許権の権利内容


特許権は発明の実施に係る権利ですが、著作権と同様、積極的に発明を実施する権利というよりは、他人に勝手に特許発明を実施されない権利といったものです。

発明を実施すること自体は、他社の特許権を侵害しないのであれば、特許を取得せずとも自由に可能です。


なお、発明は物の発明と方法の発明に分けられ、方法の発明はさらに、(単純)方法の発明と物の生産方法の発明に区別されます。

発明方法

概要

具体例

​物の発明

​技術的思想が物の形として具現されたもので、経時的要素を含まないもの。

​機械装置、化学物質

(単純)方法の発明

経時的要素を含む発明で、物の生産を伴わないもの。

測定方法、分析方法

​物の生産方法の発明

経時的要素を含む発明で、特定の物を生産する具体的な方法を表す発明。

食品加工方法、医薬製造方法、化学物質合成方法


また、発明の実施とは、以下の行為を指します。色々ありますが、さしあたり、生産、使用、譲渡あたりを覚えておけばよいでしょう。


物の発明の場合:その物の生産、使用、譲渡、貸し渡し、輸出、輸入など

②(単純)方法の発明の場合:その方法の使用

③ 物を生産する方法の発明の場合:その方法を使用する行為(物の生産)、その方法により生産した物の使用、譲渡など


(3)特許権が保護されるための要件


特許権は著作権とは異なり、その発生が認められるには特別な手続きが必要です。すなわち、特許庁に対して特許出願や出願審査請求を行い、特許発明として認められると判断された場合には、特許料を支払って登録を受ける必要があります。


なお、どのような発明について特許が取得されているかやライセンス許諾・特許権の譲渡を受けることが可能な特許(開放特許)に関する情報は、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で検索することができます。

特許権の取得を検討する場合や自社の実施しようとしている発明が他社の特許権を侵害してしまわないか確認したい場合などには、このプラットフォームを活用するようにしましょう。


また、上記プラットフォームでは、特許のほか、実用新案、意匠、商標に係る検索も行うことができます。



3.その他の知的財産権


著作権と特許権以外の知的財産権には、以下のものがあります。いずれも特許権同様、特許庁の登録が必要です。

​実用新案権

​「考案」、すなわち自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度ではないものを保護する権利

​意匠権

​物や建築物、画像のデザイン(意匠)を保護する権利

​商標権

​自分が取り扱う商品やサービスと、他人が取り扱う商品やサービスとを区別するための文字やマークなど(商標)を保護する権利

なお、メロディ(音商標)についても商標登録可能

​育成者権

植物の新品種を保護する権利

回路配置利用権

独自に開発された半導体チップの回路配置を保護する権利

また、このほかにも、地理的表示法など(「神戸ビーフ」のような、食品などの地理的表示の保護)、不正競争防止法(他人の営業や商品などと混同させる行為の排除など)、商法、会社法(同一・類似商号使用の規制)による知的財産の保護がされています。


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