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執筆者の写真弁護士 小堀 信賢

社長1人法務期を乗り切る10の手引き その5:初めての資金調達Pt1〜エンジェル投資家〜【スタートアップ向け】

更新日:2022年3月19日





0.はじめに


1.出資を受けるとはどういうことか


(1)出資とは

出資とは、会社側から見ると、会社が金銭等を受け取り、これに対して株式や新株予約権を割り当てることでした(その1:初めての起業〜会社設立(プロローグ))。借入であれば会社は返済義務(元本+利息)を負いますが、株式会社は出資を受けても返済義務を負わず、その代わり、原則として経営参画権(議決権)を与えることになります。


なお、出資は、会社に対して資本を提供して社員(会社の実質的な所有者という意味であり、「従業員」とは異なる概念です。)となる行為を指し、投資は、投下資本回収を狙って金融商品や不動産などを購入することを指すことが多いかと思われますが、出資と同じ意味で投資という言葉が使われることもあるため(例:エンジェル投資家)、以下の説明では、出資という言葉と投資という言葉を厳密には使い分けておりません。


(2)株式と新株予約権

新株予約権を付与された人(新株予約権者)は、厳密にはその時点では出資はしていませんし、株主ではないので議決権などの株主権も有しません。後に、あらかじめ定められた金額(行使価額)を払い込む(出資する)ことにより、株主となります。


新株予約権は付与されても行使するか否かは新株予約権者の自由ですから、取得した後に企業価値(≒株価)が上昇すれば投資して株主になればいいですし、そうでなければ行使しないという選択も可能であり、投資する側から見て、リスクコントロールに優れています。一方、会社側から見ても、行使可能な時期を限定することにより(例:発行から2年間は行使できない)、発行済み株式数の増加(株式の希薄化)を抑制できるといったメリットがあります。

株 式

新株予約権

権利内容

会社の実質的所有権

行使することにより株式の交付を受けることができる権利

保有者の名称

株主

新株予約権者

​保有者ができること

  • 議決権、剰余金配当請求権、残余財産分配請求権などの株主権の行使

  • 原則として譲渡可能

  • 行使して株式の交付を受けることができる(原則として行使時に新株予約権の取得の対価とは別に出資が必要)

  • 原則として譲渡可能


2.エンジェル投資における投資契約の締結


(1)投資契約を結ぶ

会社が投資を受ける場合、投資家との間で投資契約、株主間契約、財産分配契約といった投資に関する契約を締結することになります。


株主間契約、財産分配契約は広い意味での投資契約に含まれ、投資契約という1つの契約だけが締結されることも少なくありません。一方、主に投資を受けるまでの会社と投資家との法律関係を規律するために投資契約を締結し、それとは別に、投資を受けた後の法律関係(投資家相互間を含む)を規律するために株主間契約や財産分配契約を締結することもあります。


以下では株主間契約及び財産分配契約についても若干の解説を行いますが、まずは「投資を受ける際は、会社と投資家との間で投資契約を結ぶ」という点を覚えていただければと思います。


(2)投資契約書を作成するかどうか

エンジェル投資家から投資を受ける場合、親戚など、経営者が個人的に深い繋がりを持っている人物がエンジェル投資家であることや、投資額が多額とまではいえないことが多いことから、投資契約書を作成しない(つまり、口頭のみ)で投資契約が交わされることも少なくないようです。


しかし、極力、投資契約書を作成することをお勧めいたします。


というのも、通常、エンジェル投資家から投資を受けた後にはVCから投資を受けることになります。投資実務では、VCは、ベンチャー企業が過去にどのような人・組織から、どのような条件で、いくらの投資を受けたのかを確認するのが通常であり、投資契約書がなければ、VCに対して、そういった点を説明することが困難になるおそれがあります。VCが投資内容を把握できない場合、投資するにはリスクが高いことを理由に投資を断念する、つまりディールブレイクとなってしまうおそれが高まります。


(3)株主間契約

株主間契約とは、ある会社に対する複数の株主が、会社の運営のあり方等について合意を行うものです。

例えば、VCとの投資契約においてよくみられる条項の中に「事前承諾条項」というものがあります。事前承諾条項というのは、会社が経営判断を行う場合に、VCに対して事前にその判断の内容や理由を説明し、VCの承諾を得なければならないとする条項のことをいいます。


株主間契約においても、この事前承諾条項が設けられるのが通例ですが、複数のVCから投資を受けている場合、事前承諾事項が生じるたびにすべてのVCから事前に承諾を得なければならないとなると、スピーディーなビジネスが妨げられてしまいます。そこで、株主間契約を締結し、事前承諾条項について、一定割合の議決権を有するVCが承諾すれば他のVCからの承諾を得なくてもよいこととするといった調整を行うのです。また、各VCとの間の投資契約の内容に矛盾が生じないようにするといった機能も有します。


このように重要な意義を持つ株主間契約ですが、エンジェル投資家が経営に参画しようとしていない場合には(例:事前承諾条項などの経営コントロールのための条項がエンジェル投資家との間の投資契約に含まれていない)、株主間契約の当事者にしないことも多いです。


(4)財産分配契約

財産分配契約は、M&Aによるエグジットに関する内容を取り決める契約です。すなわち、エグジットがIPOではなくM&Aによる場合において、M&Aをスムーズに実現し、また優先分配の効力をM&Aの売却代金にも及ぼすために締結されることがある契約です。


財産分配契約は株主間契約とは異なり、原則としてエンジェル投資家も含めた投資家全員(と会社)が当事者となるべきものです。



 

■ コラム執筆者


弁護士 小堀 信賢
予備試験ルートで司法試験合格後、都内法律事務所で多様な事件処理に当たる。その後、都内で法律事務所を開設して経営者として法律事務所を運営しつつ、予備試験合格経験を活かし、大手資格予備校にて、予備試験対策の指導に携わる。
しばらくして、以前から強い興味を抱いていた企業法務をメインで取り扱うべく、ユニヴィス法律事務所に参画。現在では、契約書レビューや上場企業の株主総会対策、デュー・ディリジェンスや法人登記など、様々な企業法務に関与している。



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