top of page

社長1人法務期を乗り切る10の手引き その7:人に仕事をしてもらうための契約(雇用、業務委託)【スタートアップ向け】

更新日:2022年3月19日




0.はじめに



1.雇用と業務委託の違い


「人に仕事をしてもらう」場合を大きく分けると雇用か業務委託の方法によることになります。そのため、まず雇用と業務委託の違いについて説明します。


一言でいえば、会社が指揮命令を行うことができるか(行っているか)で区別されます。


雇用であれば、雇用主である会社が仕事を行う人に指揮命令を行うことになり、他方、業務委託であれば会社は指揮命令を行うことはなく、仕事内容が契約に従ったものになっているかを確認することになります。


例えば弁護士などの専門家に仕事を依頼(外注)する場合、仕事の進め方などについて逐一指図したりはしないでしょう。そうすると、弁護士などとの専門家との間の契約は、上記の区分でいえば、雇用ではなく業務委託であることになります(業務委託という言い方はあまりしませんが。)。


本日は、雇用について派遣社員や正社員、アルバイト・パートタイマーといった概念を整理しつつ、業務委託との区別について説明したいと思います。


(1)雇用とは


雇用契約

当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することを雇用(契約)といいます。

雇用契約は、労働契約とも呼ばれます。前者は民法上の呼び方、後者は労働基準法などの労働法における呼び方ですが、前者は雇う側(使用者側)、後者は労働者側からの呼び方ともいえるでしょう。


「労働に従事する」というのは、報酬を受ける側がこれを支払う側の指揮命令に服しつつ労務を提供することを意味し、両者間のこのような関係性のことを「従属労働関係」あるいは「使用従属関係」と呼びます。このような関係が認められる(報酬を受ける側が「労働者」である)ことを、労働者性が認められると表現することがあります。


大まかにいうと、労務を提供してお金をもらう側がお金を払う側の指揮命令を受けることが前提となっていれば労働者性が認められるわけですが、実際の労働者性の有無の判断は、業務内容や遂行方法に対する指揮命令の有無のほか、勤務場所・勤務時間の指定や管理の有無、報酬が時間に対応したものかどうかなど、様々な要素を考慮して行われます。


ベンチャー企業の経営者として注意すべき点は、契約書に「これは雇用契約ではなく請負契約である。」等と書いてもあまり意味はなく、労働者性の有無は実態に即して判断されるということです。


労働者性が認められることの効果

労働者性が認められると(言い換えると、ある「人に仕事をしてもらう」契約が雇用契約、労働契約であると認められると)、労働契約法や労働基準法など、労働者を守るための各種法令(労働法)が適用されることになります。

具体的には、以下のような制限や義務が課せられることになりますので、戦略的に判断していく必要があります。

  • 労働者を働かせてよい時間の制限

  • 残業や深夜労働、休日出勤に対する割増賃金の支払義務

  • 事業所の労働者の人数が増えた場合の就業規則の作成・届出義務


正社員と契約社員

正社員や契約社員という言葉は法律上のものではありません。ですから、一般的にこのような意味で用いられがちかという意味に過ぎませんが、正社員は雇用期間の定めがない労働者、契約社員は雇用期間の定めがある労働者を指すことが多いです。「終身雇用制度」という言葉は、前者の正社員を原則的な形態として想定するものといえます。


契約社員、つまり雇用期間の定めがある労働者については、契約更新が行われることにより、有期労働契約が通算して5年を超えると、無期転換権(いわば、正社員になる権利)が発生することに注意しましょう。


派遣社員

派遣社員とは一般的に、労働者派遣契約に基づいて派遣元から派遣先に派遣されてくる労働者のことを指します。

派遣会社が派遣元、派遣社員に来てもらう会社が派遣先です。派遣社員は派遣元との間で雇用契約・労働契約を締結し、派遣先から指揮命令を受けつつ労働することになります。派遣先との間では雇用契約・労働契約は締結しません。

あなたの会社が派遣社員を用いる場合、労働者派遣契約を締結する相手は派遣会社となるので、ちゃんとした派遣会社を選んできちんとアドバイスを受けつつビジネスを進めれば、大きな問題は生じないでしょう。


アルバイト、パートタイマー

一般的には、労働時間が通常の労働者(1日8時間、週5日。いわゆるフルタイム)と比較して少ない人のことをアルバイトやパートタイマーと呼びます。正社員・契約社員の区別とは異なり雇用「期間」ではなく労働「時間」に着目した概念ですが、アルバイトやパートタイマーは多くの場合、有期雇用でしょう。


なお、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」2条1項においては、「短時間労働者」とは、1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比し短い労働者をいうものと定められており、一般的な意味でのアルバイトやパートタイマーは、この「短時間労働者」に該当します。


(2)業務委託とは


雇用との違い

業務委託と呼ばれるものは、法的には委任又は請負を指すことが多いですが、これらはいずれも報酬を受ける側が払う側の指揮命令に服さないものであり、その点が雇用との最大の違いとなります。


つまり、「従属労働関係」「使用従属関係」、あるいは労働者性が認められるかどうかが業務委託と雇用の分水嶺なのです。もちろん、明らかに雇用ではないといえるケース(例:弁護士や司法書士への依頼)では労働者性の有無を検討する必要はありませんが、例えば外部の特定のスタッフに毎月一定量の作業を依頼しており、そのスタッフは他社の仕事はしていないといった場合だと、そのスタッフの労働者性が肯定される可能性もあります。


委任と請負

多くの業務委託は、法的には委任(あるいは準委任)か請負かに区別されます。いずれも「外部のプロに仕事を依頼する」といった契約ですが、委任は仕事の完成までは内容としないのに対し、請負は仕事の完成を内容とします。


例えば弁護士に訴訟対応を依頼した場合、弁護士は有利な結果となるように努力する義務は負いますが、勝訴という結果を出す義務までは負いません。ゆえに、この場合の弁護士との契約は、請負ではなく委任となります。


ただ、この区別は何をもって「仕事の完成」と考えるかによっても左右されるので、実際には委任か請負かが区別しにくい契約も存在します。


(3)偽装請負(偽装委任)に要注意

偽装請負(偽装委任)とは、形式的には請負・委任となっているが、実態は雇用となってしまっている場合を指します。


さきほど、外部の特定のスタッフに毎月一定量の作業を依頼しており、そのスタッフは他社の仕事はしていないといった場合だと、そのスタッフの労働者性が肯定される可能性もあると述べました。このように、契約当事者は雇用ではないと考えていたとしても、法的・客観的には雇用となってしまっていることがあるわけです。


そのようにして、いつの間にか自社が偽装請負(偽装委任)をしていたということにならないよう、「人に仕事をしてもらう」契約をする場合には、その実質的内容が雇用かどうかについてしっかり検討するようにしましょう。



2.どのようにして使い分けるか

このように「人に仕事をしてもらう」といっても様々な形があるわけですが、会社に常駐して様々な業務を処理してもらいたいなら雇用契約・労働契約、特定の業務を専門的な知識・スキルを用いて処理してもらいたいなら委任契約か請負契約を結ぶといった使い分けが考えられます。


「従属労働関係」「使用従属関係」が認められると雇用契約・労働契約になるということは、そのような関係性の下に(指揮命令しつつ)人に仕事をしてもらいたいのであれば、雇用契約・労働契約を締結すべきともいえるわけです。


以上が一般的な説明になります。ただし、業務内容や、業種・職種によっても判断が異なってきますので、労働契約と評価されないように業務委託の形態で契約したいということであれば、会社の事情を踏まえ、専門家である弁護士のサポートを受けて契約書を作成すべきであると考えられます。




 

■ コラム執筆者


弁護士 小堀 信賢
予備試験ルートで司法試験合格後、都内法律事務所で多様な事件処理に当たる。その後、都内で法律事務所を開設して経営者として法律事務所を運営しつつ、予備試験合格経験を活かし、大手資格予備校にて、予備試験対策の指導に携わる。
しばらくして、以前から強い興味を抱いていた企業法務をメインで取り扱うべく、ユニヴィス法律事務所に参画。現在では、契約書レビューや上場企業の株主総会対策、デュー・ディリジェンスや法人登記など、様々な企業法務に関与している。




閲覧数:70回0件のコメント

Comments


bottom of page