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社長1人法務期を乗り切る10の手引き その6:投資契約を締結する際の注意点【スタートアップ向け】

更新日:2022年3月19日

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0.はじめに



ポイント


  • 特に注意すべきは「事前承諾条項」と「経営者の専念義務+コールオプション」

  • 事前承諾条項をあえて容認することでVCのサポートを受けられることも。必ずしも、事前通知又は協議条項への修正を求めるべきとはいえない

  • 専念義務&コールオプションはVCが投資家の覚悟をはかるバロメーターでもある。拒絶する前に、発動条件と買取価額での調整を検討しよう


事前承諾(通知、協議)条項と経営者の専念義務等


投資契約書には多数の条項が記載されているものですが、ここでは投資契約書に含まれる条項のうち、起業家が特に気にしがちなもの2つ、すなわち⑴事前承諾(通知、協議)条項と⑵経営者の専念義務+コールオプションについて述べたいと思います。


(1)事前承諾(通知、協議)条項について

事前承諾条項とは、以下のように、投資を受けた会社や起業家が一定の行為をしようとする場合、あらかじめVCの承諾を得なければならないとする条項です。これと異なり、事前通知条項の場合、事前に通知をするだけで足ります。また、事前協議条項の場合には、通知の上協議しなければならないものとされます。



【事前承諾条項の例】

発行会社及び創業株主は、投資家に対し、以下の事項については決定を行う14日前に通知し、多数優先株主の書面又は電子メールによる承認を得るものとする。

⑴ 定款の変更
⑵ 発行会社株式等の発行又は処分。
⑶ 合併、株式交換、株式移転、株式交付、会社分割、事業譲渡又は事業譲受
⑷ 解散又は破産、民事再生、会社更正若しくは特別清算の申立ての決定
⑸ 創業株主の保有する発行会社株式等の譲渡、担保の設定、その他の処分
⑹ 資金使途の変更
⑺ 役員の選任又は解任
⑻ 投資に関する契約の締結、変更又は解除
⑼ 発行会社の株式等の譲渡等に対する承認
⑽ 株式上場に関する公開予定時期、公開予定市場、引受主幹事証券会社、監査法人の決定又は変更

VCはベンチャー企業を審査し、会社や会社が行う事業に社会的価値や成長性を期待して投資するのであって、知らない間に会社や会社が行う事業に関して重大な変更がある場合や、会社の株主や経営陣に反社会的勢力が入り込みかねない場合には、会社や事業の価値が損なわれることを回避すべく、コントロールを及ぼしたいと考えます。


そこで、事前承諾(通知、協議)条項を設けた上で、会社に重要な影響が及ぶ行為(コントロールを及ぼしたいと考える行為)を列挙し、会社の価値を維持・向上させるために、起業家との間で意見の擦り合わせを行うことになります。


事前通知の場合には「投資家に知らせるだけで足りる」一方、事前承諾の場合には「投資家の合意を取り付ける(拒否されうる)」ことが必要となるので、法的負担の度合いとしては、軽いものから順に



事前通知条項 > 事前協議条項 > 事前承諾条項

となります。そうすると、「事前通知条項で済ませるVCは良いVC、事前協議条項を入れたがるVCは普通のVC、事前承諾条項を入れようとするVCは悪いVC」と考えてしまいそうになりますが、そうとも言い切れません。


というのも、上記条項例をご覧いただければお分かりのように、事前承諾(通知、協議)条項で承諾等が必要であるとされがちな行為(以下、「要承諾等行為」といいます。)の多くは、それを適切に行おうとすると、ベンチャー企業の運営に関する法的・実務的経験が要求されるものです。


しかしながら、現実にはそのような法的・実務的経験が乏しいことも多い起業家が実際にこれを自力で行おうとしても難しいのが実情です。起業家は自社のサービスやプロダクトに専念すべきで、法的手続面でのサポートはVCが行うべきと考えているVCもあるでしょう。起業家自身の判断で違法な手続きをしてした結果、その行為が後々無効と判断されてしまい、重要な業務提携や取引先を失う結果になる可能性があります。


したがって、事前承諾条項は一見起業家サイドに重い負担を与えるものと捉えられがちですが、企業運営に精通したVCの協力を必ず得られるという意味では、(もちろん相手のVC次第ですが)実はメリットもある条項といえます。


なお、条項例に列挙された行為のうち、「資金使途の変更」については法的知識や実務的経験は必要ないかも知れませんが、投資家の意に反して投資を受けた資金の用途を変更することが妥当でないことは言うまでもないでしょう。


ゆえに、事前承諾(通知、協議)条項について、通知や協議で足りるかそれとも承諾が必要なのかという点は、一見すると大きな問題とも思えますが、現実的に考えていくと、それそのものにこだわることのメリットは必ずしも大きくはありません(また、現実問題として、通知だけで良いとするVCは多くはないでしょう。)。よって、通知か協議か承諾かにばかりこだわるのではなく、列挙されている行為の中に細かすぎるものが入っていないかなどを含めて検討するようにすることをお勧めいたします。


(2)経営者の専念義務&コールオプション

専念義務条項とは、投資家の承諾なく(代表)取締役を辞任したり再選を拒否しないことを義務付ける条項をいい、VCとの投資契約では、下掲の1項のような形で設けられることがあります。

また、コールオプションとは、起業家が(代表)取締役の地位を失った場合、起業家が有するベンチャー企業の株式をVCなどに譲渡しなければならないことを内容とする条項をいい、下掲の2項のような形で設けられることがあります。



【専念義務条項及びコールオプションの例】

1. 創業株主は、投資家の事前の書面による承諾なく、発行会社の代表取締役及び取締役を辞任せず、再選を拒否しないものとする。

2. 創業株主が発行会社の代表取締役及び取締役の地位を失ったときは、投資家は、創業株主に対し書面で通知することにより、創業株主が保有する発行会社の株式の全てを創業株主が発行会社の株式を取得した際の取得価額で買い取ることができるものとする。

ベンチャー企業が成功するかどうかにとって経営者(≒起業家)の才覚や努力が非常に重要なことは言うまでもありません。誤解を恐れずにいえば、VCは経営者の人となりを見て投資しているといっても過言ではありません。そのため、投資した後に経営者が変わることはVCにとって投資判断の前提を覆し得る事象です。


そこで、VCは、投資契約書に専念義務条項を盛り込むことを希望します。


言い換えると、このような条項はVCの起業家に対する期待の表れともいえ、かつ、むやみにこの条項を拒絶することは起業家の事業コミットへの覚悟についてVCの期待を裏切るようなものともいえますので、弁護士などの法的アドバイザーから同条項を投資契約書に盛り込むことを拒絶すべき旨のコメントが寄せられたとしても、VCとの関係性などを踏まえ、その適否を入念に検討しましょう。


ただ、「重大な怪我や病気などのやむを得ない事情が生じた場合、例外的に辞めることができる」旨の規定が盛り込まれていない場合には、そのような例外規定の追加を求めるべきでしょう。


いかに専念義務条項を盛り込んだからといって、完全にやる気を失ってしまった起業家を経営者にし続けておくことは妥当ではありません。そこで、専念義務違反を前提としつつ、別の人を経営者にする方向で話が進むことがあります。また、やむを得ない事情がある場合のように、専念義務には違反しないが経営者が変わるという事態も考えられます。

そのような場合に備え、経営者が保有株式を手放さなければならないことを内容とする条項(コールオプション)が設けられます。


なぜ経営者を辞めるからといって株式を手放さなければならないのかと疑問に思われる方もいるかもしれません。しかし、株式会社においては、保有している株式の数に応じて会社の運営に関する意思決定権が与えられるのが原則であり、もはや会社の経営に関わらなくなった人物が大きな意思決定権を持ち続けることは望ましいことではありません。


さらに、辞めた経営者が第三者に株式を譲渡したり、相続が発生したりすれば、会社経営に大きな混乱がもたらされる危険が高まります。そしてこれらの危険は、滞りない成長が要求されるスタートアップにおいては喫緊の事態となりえます。一言で言えば、企業価値を維持するため、株式が外部に持ち出されないようにする必要があるのです。ですから、経営者が辞めた場合のコールオプションについても、VCとしては当然の要望といえます。


ただ、コールオプションが行使された場合の株式の譲渡価額については交渉の余地はあるでしょう。起業家が株式を取得した際の価額とされることが考えられますが、会社がある程度成長した後にコールオプションが行使されたような場合、これでは譲渡価額が安くなりすぎますし、それまで事業成長を牽引してきた経営者としても、成長前の取得価額を基準にすることをにわかには受け入れ難いことも事実でしょう。


そこで、少なくともやむを得ない事情により辞める場合には、対象会社の直近の貸借対照表上の簿価純資産額や第三者評価人の評価額など、コールオプションが行使された時点において合理的に算定される価額による譲渡を可能とするような条項とすることを求めることが考えられます。



3 少しでも疑問があれば専門家に相談を


投資契約書の内容は高度に専門的である上、合意した場合における事業上の影響及び経済的な影響はとても大きいです。内容に疑問がある場合、自分達だけで判断せず、弁護士などの専門家に一度相談してアドバイスを受けた方がいいでしょう(なお、当事務所でもご相談を承っております。)。



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■ コラム執筆者


弁護士 小堀 信賢
予備試験ルートで司法試験合格後、都内法律事務所で多様な事件処理に当たる。その後、都内で法律事務所を開設して経営者として法律事務所を運営しつつ、予備試験合格経験を活かし、大手資格予備校にて、予備試験対策の指導に携わる。
しばらくして、以前から強い興味を抱いていた企業法務をメインで取り扱うべく、ユニヴィス法律事務所に参画。現在では、契約書レビューや上場企業の株主総会対策、デュー・ディリジェンスや法人登記など、様々な企業法務に関与している。

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